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Story

Vision01

【 ウィスカとゴーレムと3人の剣士2】
「一体何が……?」

 震えながら、ウィスカは周囲を確認する。

 警戒しつつ少しずつ歩いて行くと、

「ん、お前か」

 凍り付いた岩の上で煙草を吸っていたカルマがウィスカに気付き火を消した。

「これ、カルマさんがやったんですか?」

「ああ」

「なんでこんなことに?」

「俺1人では3体のゴーレムの相手は厳しい。一気に砕ける火力も力も出しにくい。ただの生き物相手なら他にもやり方があったが、ゴーレム相手だと俺の魔法は相性が悪い」

「それで、ああ、なるほど……」

 ウィスカは言いながら、カルマが眺めていたものを見て納得した。

 カルマの魔法で凍り付いた一帯と共に3体のゴーレムが倒れ伏していた。すっかり氷に包まれているゴーレムたちは一切動く気配すらない。

「あいつらが来るまで待とうと思ったが、お前が来たなら話は早いな」

 立ち上がり、岩から降りたカルマは剣を手に取ってゴーレムたちを睨む。

「ゴーレムを砕いていく。また強化魔法をかけてくれるか」

 そう言ってゴーレムたちの方に歩いて行くカルマに続いてウィスカも歩いて行き、提案する。

「あの、たぶん私がやった方が早いと思いますよ?」

 しかしその提案に、カルマは何も答えない。

「私の魔法なら、えっと……」

 ウィスカは少し辺りを見回し、凍り切っていない辺りまで歩いて行くと、木の実を植えて魔力を込める。いくつかの細い枝と蔓が絡まり合い、それらは先端に向かうにつれて細く鋭くなっていく。やがて巨大な杭のように成長したそれを、ウィスカは強化魔法を肉体にかけて引き抜いた。

「これで、コアの辺りをグサッとすればすぐに済みます」

 コアの場所を探らなきゃいけませんけど、とゴーレムに近づこうとするウィスカだったが、不意にその腕をカルマが掴んだ。

 不思議そうに視線を向けるウィスカに、カルマは一瞬とても悲しそうな顔をした後、問いかける。

「お前の魔法は、こうやって使うために学んだものか?」

 その質問に、ウィスカは思わず首を傾げてしまった。

 何のために魔法を学んだのかなんて、ウィスカは考えたこともなかった。

 強いて言うなら、生きるため、でしょうか?

 祖父の仕事を手伝うため、やがて自分も祖父のように人々を助けられるようになるため、家族の持っている魔法を覚えるのが周りでも普通のことだったため――いくつか他の理由も考えてはみたけれど、どれもしっくりくるわけではない。

 後から理由をつけているだけ。

 結局のところ、明確な目的を持って魔法を学んだとは言えないとウィスカは気が付いた。

 神妙な顔でウィスカは軽く唸る。

「むむむ……」

 手に持っていた杭を横に置き、ウィスカは自分の浅はかさを恨んだ。

 今までしっかりと意識を持って魔法を学んできたとは決して言えない。そんな調子では、いつか必ず伸び悩んだり躓いてしまう時がきてしまうだろう。

 改めて、自分がどうして魔法を使うのか、しっかりと考えてみるべきかもしれない。

「……ウィスカ?」

 黙り込んで悩み初めてしまったウィスカに、さすがのカルマも怪訝そうな顔を向ける。

 ウィスカは名前を呼ばれ、ハッと我に返るとカルマに向かって悲しそうに言った。

「私、魔法を何のために学ぼうか、なんてちゃんと考えたこともありませんでした。生きる上で何かと便利だから、ってそれぐらいです。きっとそれじゃあ、ダメなんでしょうね」

 その返答に、カルマは眉間を軽く押さえ、しばらく黙り込んだ後、静かにウィスカが横に置いた杭を持ってゴーレムの方に向かってしまった。

 あっ、とウィスカが声を上げるよりも早く、カルマは杭をゴーレムたちに突き立てていく。

 次々に機能停止していくゴーレムたちを見ながら、カルマは静かに言った。

「これは、命を奪う行為だ」

 自分も手伝おう、と魔法の準備をしていたウィスカだったが、カルマの真剣な声に思わず手を止める。

「こいつらは命がない人形かもしれない。だが、確かにここにいる。自我はなくとも、ここに生まれた存在だ。俺たちはただ俺たちの都合で勝手にこいつらを殺している」

 グサリ、と最後の1体に杭が突き立てられた。

 その重たい音が、妙にウィスカの耳に残る。元々動けない状態だったゴーレムたちが、完全に動かなくなった。その光景から、ウィスカは目が離せない。

「動物の肉を得るために狩りをする。木々が繁栄するための種や果実を収穫する。そして仕事をするためにこうしてゴーレムたちを殺す。生きるために、自分勝手に。それは気軽にやっていいことじゃない」

 杭を引き抜き、ゴーレムたちの体からカルマは魔石を取り出していく。

 1つ、1つと大小さまざまな大きさの魔石を袋に詰めながら、カルマは凍り付いた周囲を元に戻していった。

「お前の魔法は、こんなことのためのものじゃないだろう? 力の使い方を考えるというのは難しいかもしれないが、1度しっかり見据えてみるといい。自分の魔法は何のためにあるのか、な」

 魔石の詰まった袋を担ぎ、カルマは軽くゴーレムたちの残骸に黙祷を捧げてファイシネスのたちの方へと向かって行ってしまった。

 残されたウィスカは置いて行かれまいと歩き出すが、その足取りは重く表情も暗い。

 深く考え込みながら歩くウィスカをカルマはチラッと見て、何かを言いかけ、再び黙って歩き出す。

 ただただ静かな岩場に、2人の足音だけが響いていた。

「いやー、助かったよ! ありがとう、ウィスカちゃん」

「いえ、お役に立てて何よりです」

 ファイシネスたちはすでにゴーレムの体内から魔石を取り出し終えていたようで、カルマと共に戻ったウィスカを嬉しそうにねぎらってくれた。

「……カルマに何か言われたな? ウィスカ」

「えっ、そ、そんなことないですよ?」

 にやりと不敵な笑みを浮かべ、フィルザがウィスカの横にやってくる。

 ウィスカと肩を組みながら、彼女はからかうように言った。

「あいつは小難しいことを言うし、何かとつけて「もっと考えろ」なんて言うけどな。結局のところはお人好しなだけなんだよ。口下手なお節介焼きなんだ」

「フィルザ……」

 低い声を出すカルマだったが、フィルザは構わず続ける。

「お前もいろいろと言われたんだろうな。まあ、あいつの言うことは難しいが、悩む価値のあることだ。必要だと思わなきゃあいつは口に出さない。おかげで勘違いされやすいんだよ。本当は誰よりも優しいやつなんだ、あいつは」

「もういい、喋るな」

 剣を手に取り始めたカルマに、フィルザもウィスカから離れて剣を手にする。

「久しぶりにやるか?」

「後悔するなよ」

 2人が構えを取る中、

「そこまでだ2人とも。喧嘩なら後でじっくりやってくれ。ウィスカちゃんも見ているんだぞ」

 ファイシネスが手を叩きながら言うと、2人は顔を見合わせ、渋々といった具合に剣を収める。

「すまないね、我々はいつもこんな調子なものだから」

「いえ。仲が良いんですね、皆さん」

 ウィスカの言葉にファイシネスはきょとんとした顔をした後、大きな笑い声を上げた。

「ハハハ、ウィスカちゃんにはそう見えるかい?」

「はい。さっきのも、お互い信頼してるからこその軽口、というものだと思います。戦っている時も皆さんはそれぞれお互いの力を信じてたからこそバラバラに動いていたと思いますし、いいですね、そういう、信頼関係っていうんでしょうか。ちょっと憧れちゃいます」

 ウィスカに笑顔を向けたまま、ファイシネスは優しく尋ねる。

「ウィスカちゃんは、1人旅をしているんだったね?」

「はい」

「だったら、いつか仲間と旅をしてみるといい。自分だけでは乗り越えられないような困難も、誰かと一緒にだと乗り越えられたりするものだ。そうだな、カルマに言われたような難しいことも、フィルザの言っていた答えの出しにくいことも、1人じゃ悩ましくても、誰かと一緒に考えたら新しい答えが見つかるかもしれない。1人じゃないというのは、それだけで心強いものなんだよ」

 穏やかで優しい、それでいて背を押してくれるような彼の言葉に、ウィスカは胸がじんわり温かくなるような気がした。

 そして、にっこりと笑ったウィスカは改めて3人に言う。

「ファイシネスさん、フィルザさん、カルマさん、ありがとうございます。私、旅を始めてからいろんなことを考えるようになりましたけど、まだまだたっくさん知らなきゃいけないことも考えなきゃいけないこともあるって思いました! 頑張って私なりの答え、出してみたいと思います! あ、あと、一緒に旅してくれる人も、できたら捜してみようと思います……見つかるといいんですけど……」

 えへへ、と笑うウィスカに、3人はそれぞれに言う。

「大丈夫、ウィスカちゃんならきっと素敵な仲間が見つかるさ」

 ファイシネスは穏やかな笑みを浮かべて。

「大いに悩むといい。若人の特権だからな、未来への苦悩というものは!」

 フィルザはどことなく嬉しそうな満面の笑みで。

「……悩み過ぎればそれは毒となることもある。無理はするなよ」

 カルマはぶっきらぼうながらも少しだけ微笑んで。

 ウィスカの旅路を祝福してくれている3人にもう1度笑顔を見せて、ウィスカは決意する。

 私の魔法はどんなことのために使いたいのか。

 私はどんなことがしたいのか。

 まだまだはっきりしていないことだらけだけど、決めたいことは見えてきた気がします。

 それを教えてくれた人たちに感謝するためにも、旅を通してしっかり学んでいきましょう。これからも、まだまだ旅は続くのですから。  そんなウィスカの決意を応援するかのように、太陽を遮っていた雲が切れ、光が差し込み彼女たちを照らすのだった。