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Story

Vision01

Story 【 魔力やられと果樹の森 2】
リュミエルとエクリエルは双子であり、生まれた時からずっと一緒だった。

 魔法の練習をするのも、食事を取るのも、家の手伝いをするのも勉強をするのも、何をするにも一緒に行ってきた。

 だからこそ、リュミエルはエクリエルの弱さを知っている。

 気が弱くて、咄嗟の判断が苦手で、どんくさくて、ドジなのがエクリエルだ。

 だけど同じぐらい、良いところもたくさん知っている。

 昔から優しさが人の姿で歩いてるような子で、自分より弱いものだけでなく、自分よりずっと立派な人や強い動物が怪我をしたり苦しんでいるのを見ても、力になりたいと言って行動する子だ。意外にも人のことを良く見ていて、困っている人がいると先に気が付くのはいつもエクリエルの方だった。

 本人の容量の悪さはどうしてもあるが、その心は間違いなく大切にすべき優しさを持っている。なら、必要な部分は自分がカバーしてあげればいい。

 いつからか、リュミエルはそう考えて日々を生きていた。

 エクリエル1人では、その立派な考えを活かすことは難しい。だけど、自分が一緒にいれば大丈夫。リュミエルはそう、思っていたのだが。

 魔力やられを起こしている狼にエクリエルは1人で立ち向かい、さらに今まで呼んだこともないような使い魔まで召喚してしみせた。

 これだけ立派にできるなら、もう自分の助けなんていらないんじゃないか、そんなことまで思ってしまう。

 むしろ、自分が横にいるせいで、エクリエルの自由を奪ったりしていないだろうか? なんてことまで考えてしまう。

 昔から、リュミエルは要領の良い方だった。

 魔法を使えるようになったのもとても早かったし、便利な能力だったため村人や家族からも重宝された。

 対してエクリエルは魔法を覚えたのもつい最近だったし、その力もまだまだ使いこなせているとは言えない。

 だからまだまだ見守っていてやらないといけない、と思っていたリュミエルだったが、それは勘違いだったのかもしれない。

 本来ならエクリエルはもっと成長できていたし、自分が横からあれこれと口出しをしたり、代わってやったりするから伸び悩んでいただけなのかもしれない。

「リュミエル、リュミエル?」

「ん、ああ、なんだ?」

 考え込んでしまっていたリュミエルを、手を引いたままエクリエルが振り返っている。

「疲れちゃった? それとも、さっき怪我でもした? 顔色悪いよ?」

 心配そうにしているエクリエルに、リュミエルは軽く笑って見せる。

「いや、何でもない。それより急ごう、狼がまた追ってきてるかもしれない」

「でも……」

「大丈夫だって。そんな不安そうな顔するなよ」

 なおさら笑って見せるリュミエルだが、エクリエルはそれでも心配そうにしていた。

「リュミエル、本当になんともないの?」

 ぎゅっと、エクリエルが強く手を握ってくる。

 思わず立ち止まってしまったリュミエルに合わせて、エクリエルは足を止めた。

 狼の遠吠えは聞こえない。足音もしないあたり、あの呼び出した淑女が頑張って足止めしてくれているのだろう。

「私じゃ頼りないかもしれないけど、できる限りのことはするから。ね、だからもう少しだけ、私にも頑張らせて、リュミエル」

「エクリエル……」

 心の底から心配している様子の彼女に、リュミエルは少し考えてから、捻ってしまった足を見せた。

「ちょっと捻ったみたいだ。まあ、走れなくはないから――」

「こんな足で走ってたの!? ごめんね、気づかなくて……」

「いや、大したことないからな。それより、急いで村まで戻ろう。そうすれば治療魔法が使えるやつもいるし」

「う、うん! そうだ、私がおんぶしようか?」

「……それで、お前が走るのか?」

「うん」

「……あのな、エクリエル」

 リュミエルは少しだけホッとした気持ちで、優しく笑う。

「いくら肉体強化の魔法をかけても、そんなに長くは使えないだろ。それに、エクリエルが力尽きたら今度は俺がお前を運ぶのか? 怪我したまま?」

「あっ、そ、そっか……」

「いいか、エクリエル。お前の魔法を使うなら、こうだ」

 リュミエルは、先ほど使ってしまった魔石を取り出して言う。

「こいつと、あとはそうだな、この杖とお前の髪飾り。これの魔力を戻せば、もう一度使い魔が呼べる。そいつに俺らを運んでもらう方が確実だ。俺も魔力を出すから、それでそこそこの大きさのやつを呼ぼう。できるか?」

「う、うん、やってみる!」

 エクリエルは言われた通り、能力を行使する。

 エクリエルの魔法は『黎明想起』。1度魔力や色を失ったモノに再び力を与える能力。逆に言えば、1度でも魔力を帯びていなかったものには使えない力である。

 初めて使えるようになった時もそうだったが、エクリエルはいまいち自分の力の使い方を理解していない。そればかりは、どうやら変わっていなかったようだ。

「よし、いくぞ!」

 再び魔力の籠った自分の杖を振るい、リュミエルはエクリエルと共に使い魔を召喚する。

 今度呼び出すのは2人を抱えて運べそうな存在。

 魔力が形を得ていき、やがて呼び出されたのは、1頭の巨大な鹿だった。ただし、その頭に生えているのは角ではなく木の枝であり、その先には青々とした葉が茂っている。

「よし、俺らを乗せて走ってくれ!」

 リュミエルの言葉に、鹿が膝を折る。

 2人が乗ったのを確認すると、鹿は勢いよく森の中を駆け始めた。

 後ろから狼の遠吠えが聞こえる。だが、鹿の足は速く、あっという間に森の中を走り抜けて行く。

「これなら大丈夫そうだな……」

「そうだね……ホント、リュミエルがいてくれて良かった」

「なんだよ、急に」

「だって、私1人だったらこんなこと考えられなかったもん。それに、さっきもね、リュミエルがいたから、私、いろいろできたんだよ。狼を攻撃するなんて、1人だったら絶対できなかった。リュミエルを助けなきゃって、えへへ、自分でも攻撃してからびっくりしちゃったよ」

 困ったように笑いながら、リュミエルは自分の杖をぎゅっと抱きしめて、体を震わせていた。

「怖かったよ、すごく。でも、リュミエルは怪我しちゃったけど、生きてて良かった……リュミエルがいなくなる方が、私、ずっと怖かったよ……」

 今も、力強く彼女はリュミエルの手を握っている。

 いつか、彼女はこの手を離して先へ先へと走って行くことだろう。

 リュミエルはそう思っていたが、そんな未来は遠い先、なかなかやってこないのかもしれない。

 彼女はまだまだ、自分がいないとダメみたいだ。

「しょうがないな、エクリエルは」

 小さく笑って、リュミエルはエクリエルの手を握り返す。

 足は痛むし安心するにはまだ早いが、それでも、リュミエルの心は穏やかだった。

 この手の温もりだけは、絶対に守ろう。小さな頃から当たり前に隣にいる大切な家族を、ちゃんと守り抜こう。

 改めて思うリュミエルの気持ちはきっと、エクリエルも同じだった。

「あっ、見えてきた!」

 やがて、森の入り口が近づいてきた。

 入口から少し行けば、あとは村の入り口から馬車に乗り込んで故郷を目指すだけ。

「もうちょっとだけ頑張ってね、リュミエル」

「ああ」

 2人を乗せて鹿は駆ける。

 その後、2人は無事馬車に乗ることに成功する。そして新たな出会いを果たすのだが――それはまだ、少し先のお話。