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Story

Vision01

【 グラースの村と赤い出会い1】
「こっちが小物を扱ってるお店で、こっちが野菜を専門に作ってるお店。あとこっちはね――」

 次から次へと、エクリエルは村の中に存在する店を紹介してくれる。

 ウィスカは1度に覚えきれるでしょうか、と笑顔の裏で考えながら、彼女の言葉にうなずいたり相槌を打っていた。

「エクリエル、そんなに一気に教えたって覚えきれないだろ」

「あっ、それもそっか……ごめんなさい、お客さん自体久しぶりで……」

「いえいえ、案内してくださってありがとうございます。ところで、お2人は門番さんなんですよね?」

「ああ」

「そうだよー」

「入口から離れてしまって良いのですか?」

 まだ振り返れば見える位置にあるが、それでもそこそこ歩いてきてしまった。3人の前にある坂を昇れば、いよいよ村の入り口は見えなくなってしまう。

 小首を傾げるウィスカに、リュミエルが小さく笑って言う。

「俺たちは門番とは呼ばれてるけど、どっちかと言えば旅人とかよそから来た人を案内するのが役割なんだよ。案内人、って言った方が正しいのかもな」

「悪い人かどうか見定めるのもお仕事なんだ」

「……それは言っちゃダメなやつな」

「でも、お姉さんは悪い人じゃないよ?」

「あのなぁ……」

 ため息をつくリュミエルを「まあまあ」と宥めつつ、2人に続いて道を歩いて行く。

 グラースの村は、ウィスカの村と同じように自然と共に生きている村のようだった。しかしその規模はかなり違う。どうやら他の村や集落と交易も盛んに行っているようで、ウィスカが見たこともないような品物を扱っている露店も出ていた。

「外から来る人は少ないんですか?」

「あんまりいない。つっても、俺らが担当してるあっちの入り口からは、って感じだな。何より、旅路で寄るって人が少ないんだよ。ここはだいたい中継地点で、あっちのゴルムの街に行く途中で休憩に立ち寄るってぐらい。案内も別にいらない、って断られることも多いんだ」

「大人からしたらただの子供だもんね、私たち」

「これでもきちんと仕事してるんだけどな……」

 拗ねたように言うリュミエルを宥めつつ、ウィスカは村に立ち並ぶ家や店を眺めた。

 確かに、食堂だったり長期保存の効く旅人向けの商品を扱っている店が多い。干し肉がずらっと店先に並んでいるお店なんかは迫力満点だ。

 ウィスカの村で店といったら、自分のいた薬屋か、食事処として簡単な家庭料理を出してくれるお店か、細々とした家庭に必要な家財道具と保存食を扱っているお店か、といった具合だ。各々の家庭で食材は確保することが多いし、ウィスカもよく森にキノコやら野草を取りに行ったことがある。

 こちらの村では、各家庭で自給しているのが半分、お店で購入するのが半分、といった

感じらしい。2人が言うには、先ほど話題に出たゴルムの街なんかでは購入したもので食事を作ったり外食するのが普通なのだという。

「場所によって、生活に違いがあるんですねぇ」

 ウィスカはほとんど地元で過ごしていたこともあり、思わず感心してしまった。

 森の中に入るのは、実際危険も多い。足元は複雑に絡み合った木の根や石ころで転びやすいし、雨が降った後なんかは滑りやすい。野生動物もたくさんいるし、魔力やられにかかってしまった子と出くわさない保証もない。キノコや野草も毒の有無を見分けるのが難しいしで、たくさんの知識と経験が必要だ。

 そういうリスクを背負ってくれる人と、その分採ってきたものを買ってくれる人、その両方がいるとすれば、確かにそんな生活も成り立つのだろう。

「私、知らないことだらけです。改めてそう思いました」

 目をキラキラさせて言うウィスカに、リュミエルとエクリエルは顔を見合わせる。

「あの、もっといろいろと教えてもらっても良いですか? 例えば、この村の暮らしのこととか、私の知らなそうなこととか!」

 やたらと無邪気な物言いに、リュミエルはげんなりとした視線を向ける。

「お姉さん、どんなド田舎から出てきたんだ……?」

「リュミエル! ごめんね、お姉さん。そうだなぁ……あ、お姉さんは、自分の魔法にどうやって気づいたの?」

「私、ですか? 私はお爺ちゃんに教えてもらいました。お爺ちゃんが育ての親でもあるので、自然と教えてもらってたんです」

「へぇー、やっぱり私たちとは違うね、リュミエル」

「そうだな」

「えっ、そうなんですか? 私の村だと、家族が教えるのが普通でしたけど……」

「うちの村も基本はそうだよ。でも、最初に素質を見極める儀式があるんだ。儀式って言っても、あー、なんて言えばいいんだ、あれ?」

「お祭り、かなぁ……村でね、その年に生まれた子たちを集めて村長が子供たちの素質を見極めるんだ。あとは、それが発現するのを待つ、って感じ。村人みんなで集まるから、そのまま大人はお酒を飲んだり騒いだりするんだ」

「なるほど~」

 村によって風習が違うというのも、ウィスカにとっては楽しい発見の1つだった。

 外の村や街では自分たちとは違う生活を送る人もいる、と書物や祖父の話で知ってはいたものの、やはり、実際に聞くのは全然違う。

 リアリティの差がすごいのだ。自分が体験したことのない経験や経緯で生きてきた人間が目の前にいる、その事実に、ウィスカは心が躍るのを感じていた。

「お姉さん、楽しそうだね」

「えへへ、私、こうやっていろんな人のお話を聞くの、好きかもしれません」

 旅の目的に現地の人の話を聞いて回ることを加えたいぐらいには、ウィスカは2人の話を楽しんでいた。

 自分の知らない人生の新鮮さに、世界がグッと広がるのを感じる。

 知らないことを知る度に、自分の未来も広がる気がする。これはもしかしたら、旅の目的にも合致してるのかも、なんてことまで考えつつ、ウィスカはにっこりと笑った。

「お2人のお話を聞いていたら、村長さんって方にもお会いしたくなってきました。きっと、私なんかじゃ想像もつかないようなこと、たくさん知ってるんだろうなぁ……」

「ああ、それならちょうどいい」

 ぽやぽやと楽しい気分ばかりに気を取られて歩いていたウィスカは、立ち止まった2人に合わせて足を止める。

 気づけば、村の中をずいぶんと歩いてきたようだった。目の前には立派なお家がある。今まで横目に見てきた民家や店舗なんかよりひと回りは大きい。

「村長に挨拶でも、と思ってたんだ。俺らは多少なりともお姉さんに助けられたわけだし」

「村長がね、よく言ってるんだ。恩義を受けたら必ず返しなさい、そして村人の受けた恩義は村全体の恩義だから、恩人は連れてくるように、って」

 村長、と扉をノックしながらエクリエルが声をかける。

 少しして、扉を開いて現れたのは初老の男性だった。

「ああ、エクリエル。どうかしたかね?」

「客を連れてきた。俺の怪我を治してくれたり、危機を助けてくれた人だ」

「おお、それはそれは。そちらのお嬢さんがそうですかな? よく来てくださった。まだまだ栄えているとは言い難い村ですが、どうぞゆっくりしていってくだされ」

「あ、はい!」

 丁寧にお辞儀をされ、ウィスカも反射的に頭を下げる。

「よろしければ上がってくだされ。お茶を淹れましょう。お前たちも飲んで行くだろう?」

「うん!」

「俺は……って、置いていくわけにもいかないか」

「ありがとうございます、お邪魔しますね」

 にこやかな笑みを浮かべる村長に促され、ウィスカたちは大きな扉をくぐる。

 ふと、少し離れた場所から大きな歓声が聞こえてきたが、

「お姉さん、こっちだよー!」

「はーい!」

 エクリエルの声に、一瞬向けられた意識はすぐ引き戻されるのだった。